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前橋地方裁判所 昭和36年(ワ)277号 判決 1964年4月02日

原告 中島満 外一名

被告 竹内静之助 外一名

主文

被告高橋信家は、原告中島満に対し金二七、〇〇〇円およびこれに対する昭和三六年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の、原告ら各自に対し金一九、〇〇〇円およびこれに対する昭和三六年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の各支払をせよ。

原告中島満の被告高橋信家に対するその余の請求ならびに原告らの被告竹内静之助に対する請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告浅田猛と被告高橋信家との間に生じた費用は被告高橋信家の負担とし、その余はこれを二分しその一を原告らの、その余を被告高橋信家の各負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、原告らの請求の趣旨

「一、被告らは連帯して

(一)  原告中島満に対し金一〇一、〇〇〇円およびこれに対する昭和三六年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の

(二)  原告らに対して金一九、〇〇〇円およびこれに対する昭和三六年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の各支払をせよ。

二、訴訟費用は被告らの連帯負担とする」

との判決および被告両名につき担保を条件とする仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求める。

第三、原告らの請求の原因

一、原告中島は昭和二六年五月九日ごろ、被告高橋の先代高橋タイから同人所有の別紙目録<省略>記載土地(以下本件土地という)を旧農地調整法第四条による県知事の許可を停止条件として代金五五、〇〇〇円で買い受け、同人に即時内金三〇、〇〇〇円を支払い、その際右県知事の許可あり次第同人において本件土地の所有権移転登記手続をなすことおよび右移転登記と引換に残代金二五、〇〇〇円を支払うことを約した。

其後右タイは同年一〇月一二日所有権移転登記未了のまゝ死亡し、被告高橋を除くその余の共同相続人はその後相続放棄をし、相続人の一人である被告高橋において右売主たる地位を承継した。そして昭和二七年二月七日附で右売買に対する県知事の許可があつたところ、同被告は、右移転登記をするからと称して、同年四月二日右残代金二五、〇〇〇円を原告中島からその父幾次郎を通じて受領したのにかゝわらず、右移転登記をなさずに、同原告に何の連絡もしないまゝ、そのころ東京都方面へ出奔し消息不明となつた。

二、ところが被告高橋が昭和三四年一、二月ごろ大胡町に帰つたことを知つた原告中島は、直ちに被告高橋に対し本件土地所有権移転登記手続をなすことを求めたが、同被告は言を左右にして一向これに応じないばかりか、同年二月初旬ごろ、逆に原告中島に対して、売買代金である五五、〇〇〇円を返還するから前記売買契約を解約して貰いたい旨の非常識な申入れをなし、同原告が拒絶したところ、同被告は同年二月七日付で相続を原因として本件土地につき同被告のため所有権取得登記手続を了してしまい、さらに同月九日付で同原告に対し「本件土地の前記売買契約は錯誤に基くものであるから取消す」旨記載された内容証明郵便および右売買代金を供託した旨の通知書等を送付し来り、それのみならず同月一〇日付をもつて本件土地につき「同年二月八日付金三八〇、〇〇〇円の金銭消費貸借の債権担保のために被告竹内との間になした抵当権設定契約」なるものを原因として、同被告のために債権額を三八〇、〇〇〇円とする抵当権設定登記をなした。

しかしながら右抵当権設定は、現実には三八〇、〇〇〇円授受の事実はなく、しかも右債務は無利息で弁済期限も僅かに一ケ月とされており、これらからすれば右形式的な期限の到来をまつて直ちに競売の方法により被告らの関係者をして競落せしめて不正に本件土地の所有権を奪取獲得しようとした虚偽のものであること明白であつて、原告の完全なる所有権取得を妨げるために被告両名が共謀してなした不正の利得を目的とする陰謀行為である。

被告竹内は前橋地方法務局大胡出張所昭和三四年二月一〇日受付第二〇九号の売買による所有権移転仮登記の事実を知りながら敢て同日受付第二一一号による前記抵当権設定登記申請におよんだものである。仮に被告竹内が前記所有権移転仮登記の事実を知らないとしても、充分の調査をなさず前記抵当権設定登記申請におよんだのは被告竹内に重大な過失がある。

三、右の如く原告中島は被告高橋から右売買契約の履行を不当に拒絶され、また被告らによつて抵当権設定の登記をされたり、その他種々不正な行動をしていることを他人から聞知し、本件土地を第三者に処分されることを恐れた原告中島は、みずからの権利を確保するために必要な措置をとるべくやむなく弁護士小野塵一に委任して左記1ないし5の各手続をとつた(うち5については後記経緯によつて原告浅田と共同してなした。)ところ、これらに対して被告らは左記のとおり右抵当権に基くものとして競売の申立をなし、或いは応訴後原告の主張を否認する等不当に抗争したのである。即ち

1、(イ) 原告中島は本件土地につき昭和三四年二月九日前橋地方裁判所に仮登記仮処分命令の申請(同庁昭和三四年(モ)第三八号)をなし、これを許容する旨の決定に基いて前橋地方法務局大胡出張所昭和三四年二月一〇日受付第二〇九号をもつて同原告のため前記売買による所有権移転仮登記がなされたところ、被告高橋はこれより二順位おくれ同日受付第二一一号をもつて被告竹内のため前記抵当権の設定登記をなした。

そこで事態が容易でないことを知つた原告中島は、更に

(ロ) 昭和三四年二月二二日前橋地方裁判所に右抵当権処分禁止仮処分命令の申請(同庁昭和三四年(ヨ)第一八号)をすると共に

2、(イ) 同年三月三日前橋地方裁判所に、被告高橋を相手方とし本件土地について所有権移転登記手続を求める本案訴訟を提起し(同庁昭和三四年(ワ)第五一号)たが、被告高橋は上記の如く、本件土地売買の経緯を熟知しているにもかゝわらず右売買契約の締結を否認し、更に「右契約は錯誤に基くものであるから無効である」「詐欺によるものであるから取消す」等理由のない抗弁を提出して不当に抗争し、昭和三五年六月二〇日同事件につき原告中島勝訴の判決があつた後にも控訴して争つたのである。原告中島は更に

(ロ) 昭和三四年三月一四日被告らを被告訴人として、共謀による本件土地横領詐欺等の趣旨のもとに大胡警察署に宛て告訴手続をとつた。

これが告訴の必要であつた理由は、当時被告高橋はその所在が判明した直後であり、再び行方をくらますことを原告中島としてもおそれ、かたがた従前の同被告の行動や前記のように被告竹内を権利者と称して抵当権設定登記をした経緯から、被告高橋につき刑事処分を求めて早期解決を図る必要があつたし、他面本件土地につき被告高橋に対する所有権移転登記手続請求の訴訟の追行を容易にしかつこれが立証につき証拠資料に供し得るためにも必要であつたのである。

そして

(ハ) 同年二月中右抵当権設定登記の取消請求の訴を提起するに必要な資料をとゝのえるなど準備し同月一〇日右訴を提起した。

3、この間被告竹内は同年三月一六日前記抵当権設定登記が無効のものであることを知りながら、前橋地方裁判所に対し右抵当権の実行と称して競売の申立(同庁昭和三四年(ケ)第二三号)をなし、これが競売開始決定がなされたので原告中島はやむなく右弁護士に委任して

(イ) 同年五月二五日右開始決定に対し異議申立(同庁昭和三四年(モ)第一四九号)をなしたところ、同年五月二八日右開始決定を取り消し競売の申立を却下するとの決定を得た。

原告中島はこれよりさき

(ロ) 同年二月本件土地競売処分禁止仮処分申請手続をとるべく準備(たゞし申請書提出にはいたらなかつたがその理由は後記七、3、(ロ)のとおり)した。

4、二項に述べたとおり、被告高橋は昭和三四年二月二日付で「本件土地売買代金内金五五、〇〇〇円は代金でなく借受金であるから返済のため供託をした」旨原告中島に通知し、右金員を供託したので、同原告はその頃までにこうむつた同被告の本件行為により生じた損害金債権(七項1(イ)記載の仮登記仮処分事件、七項2(イ)記載の登記請求事件、七項3(イ)記載の異議申立事件の各訴訟費用、弁護士に対する報酬日当合計金)を被担保債権として、前橋地方裁判所に右返還請求権の仮差押申請をなし(同庁昭和三五年(ヨ)第六九号)その旨の決定を得、その後に六項で述べるとおり、小野弁護士を通じて交渉を重ね、右仮差押を解除すると共に、右供託金を前記損害金に充当するという趣旨で受領し、その全額を損害金の一部に充当した。

ところで、原告中島は、前記2(イ)掲記の本案訴訟において勝訴の判決を得、これが確定したので、これに基いて昭和三五年一一月一日前橋地方法務局大胡出張所受付第三四七九号をもつて所有権移転登記手続を了し本件土地中八四坪を昭和三五年一二月六日分割登記をし、昭和三六年一月二八日原告浅田に譲渡した。

そして被告竹内の抵当権は前記の如く原告中島の前記仮登記よりも登記受付番号がおくれているため、原告中島に対し法律上対抗力がないからすみやかに抵当権登記を抹消するよう、原告らから小野弁護士を通じて被告らに対して屡々請求したが、被告らは右抵当権をもつて原告らに対抗しえないことを知りながら、一向これに応じなかつた。

5、そこで原告らはやむなく昭和三六年六月二六日前橋地方裁判所に被告竹内を相手方として右抵当権設定登記抹消請求の本案訴訟(同庁昭和三六年(ワ)第一四九号)を提起した。

すると被告竹内は右訴訟の第一回口頭弁論期日の数日前に至り抹消登記の義務あることを自覚すると共に、一方では訴訟費用の負担を免れようとして原告らを欺き、原告らの押捺せる印影を冒用し、(示談証)なる私文書を偽造して法廷に提出する等奸智縦横に行動したうえ、みずから抵当権放棄による抹消登記をしたため、裁判所は同事件において重ねて同一抵当権の抹消を命ずることをなさず、唯訴訟費用は元来被告竹内の不正行為の結果必要已むなく提起された事件であるため、被告竹内の負担すべきものとして昭和三六年一〇月一六日判決せられ、既に同判決は確定し、本件土地は完全に原告各自の所有となつた次第である。

四、以上の如く原告らは被告らの共謀による前記二項記載の不正行動並びに前記三項記載の不当抗争のために昭和三四年二月以来小野弁護士に依頼し、前記三項の1ないし5記載のとおり種々民事上、刑事上の手続を提起続行することを余儀なくせられ、ために原告らは右事件のため裁判所に納付する印紙代、切手代その他の費用の他に後記七項記載のとおり小野弁護士に対し各種事件の手数料、旅費、日当、謝礼金等に多額の金員を支払つた。

尤も右各金額は日本弁護士連合会の会規第七号の同会報酬等基準規程第一条より第九条迄のいわゆる公定の最低額以下の範囲内で支払つたものである。

五、原告らが提起続行した各民事、刑事の手続中、民事は全部原告の主張どおりの結果となり、また刑事告訴も竹内については抵当権設定による詐欺事件は証拠の不充分を理由に不起訴処分となつた(原告中島としては被告竹内が同一町内の人間でもあるなどで審査会に対する不服申立を見合せた。)が、被告高橋については横領罪として昭和三五年九月二二日懲役刑が宣告され(前橋地方裁判所昭和三五年(わ)第一〇四号)確定したし、結局原告らの主張が正当であることが明白となつた訳であり、前記各金員は原告らの明白な所有権を故意に否定して争つた被告らの前記不正行動並びに不当抗争によつてそれぞれ原告らが支払うことを余儀なくされた損害金である。また前記被告らの不正行動および不当抗争は被告らの共謀によること明らかであるから民法第七一九条によつて被告らは右損害金を連帯して支払うべき責任がある。

なお、後記七項記載のうち、1ないし4は原告中島が支払い、5は原告浅田が前記のとおり本件土地のうち八四坪を買い受けた後原告らにおいて連帯して支払つたものである。

よつて請求の趣旨記載のとおり後記七項記載の金額合計から六項記載の五五、〇〇〇円と差し引いた金員と、右各金員に対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日である昭和三六年一二月二二日から右各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求めるために本訴に及んだ次第である。

六、(事情)三項4に述べたとおり原告中島は被告高橋の供託金返還請求権に対し仮差押をしたが、これに加えて昭和三六年二月四日ごろ小野弁護士は同被告に対し同被告の不法をさとし、かつ右供託金は便宜同原告のこうむつた損害金に充当し且つ被告両名において自発的に抵当権登記を抹消するならば爾余の請求権については寛大にはからうべき旨申し入れたところ、被告高橋もこれに対し異議を述べなかつたから、同被告は右申し入れに対し黙示の承諾をしたものでありよつて同原告は右仮差押を解除すると共に、検察庁から同原告に渡された供託証書により同原告が五五、〇〇〇円を受領して全額を本件損害金の一部に充当した事情にある。右のように同被告も本件損害金の支払義務があることを黙示的にであれ承認しているのである。

七、原告らが小野弁護士に支払つた金員はつぎのとおりである。

(原告中島支払分)

1、(イ) 五、〇〇〇円

昭和三四年二月九日小野弁護士に委任して前橋地方裁判所に提起した(以下全部同様)同年(モ)第三八号土地仮登記仮処分命令申請事件(三項1(イ)にあたるもの)手数料として同月一六日に支払つた。

(ロ) 二、〇〇〇円。

同月一〇日に小野弁護士が右の仮処分決定による仮登記手続のため二回大胡町に出張した往復の旅費並びに日当、貸切タクシー代合の合計額で同月一六日に支払つた。

なお二回大胡町に往復せざるを得なかつた理由は当初被申請人の肩書住所地として高橋タイの住所を表示して仮処分決定を得たところ、その二、三日前に被告高橋が同被告のため本件土地につき相続登記をしてしまい(二項で述べた。)、そのため住所の表示を同被告の住所に訂正しなおす必要を生じて、前橋地方裁判所の訂正印を受けねばならなくなつたためである。

2、(イ) 一〇、〇〇〇円。

昭和三四年二月六日に支払つた、同年(ワ)第五一号土地所有権移転登記請求訴訟事件(三項2(イ)にあたる)手数料で訴額を五〇〇、〇〇〇円と算定した計算によるもの。

これが妥当な算定であることは抵当権が貸付元金三八〇、〇〇〇円を担保して登記してあつた事情を考慮したのである。

二、〇〇〇円。

同日右事件必要事項調査のため小野弁護士が大胡町に出張した旅費および日当で同日支払つた。

二、〇〇〇円。

同年一〇月二〇日右事件において、被告高橋が、同被告作成の「本件土地売買代金二五、〇〇〇円」の領収書に押してある同被告の印影の成立を否認したので、印鑑台帳と対照してかんていするため、右事件担当裁判官が大胡町役場に出張(群馬県鑑識課員同行)した際原告ら代理人として小野弁護士がこれに立会うため大胡町役場え出張した旅費日当で、同年一一月四日に支払つた。

尚結果は被告高橋の印かんによる印影とかんていされた。

一、〇〇〇円。

被告高橋に対する各種事件に関し同年一一月二〇日以前に小野弁護士が立替えた諸費用を同日返済した分。

もつともその内容についてはこれ以上詳らかにすることはできない。

三〇、〇〇〇円。

右第一審判決勝訴(昭和三五年六月二〇日宣告)につき成功謝礼金昭和三五年六月二二日および同年七月七日の二回に支払つた。

二〇、〇〇〇円。

右判決に対し被告高橋が控訴したので、応訴のため第二審事件を小野弁護士に委任した手数料で昭和三五年九月一〇日に支払つた。

四、〇〇〇円。

右控訴事件につき東京高等裁判所へ同月一四日(第一回口頭弁論期日)小野弁護士が出頭のため東京までの国鉄旅費および車代ならびに日当三、〇〇〇円の合計額。

一〇、〇〇〇円。

右控訴事件が控訴棄却となり、これが勝訴判決確定したので、謝礼金として同年一〇月二八日に支払つた。

(ロ) 一〇、〇〇〇円。

昭和三四年三月一四日被告らに対する本件土地に関する横領詐欺等刑事告訴および共犯者捜査願(三項2(ロ)にあたる)等の手続をとることを小野弁護士に依頼して支払つた手数料。

一〇、〇〇〇円。

昭和三五年九月二二日に支払つた。

即ち前記刑事告訴事件成功し、被告高橋が横領罪として起訴され懲役刑の有罪判決確定したので、これの謝礼金。右の告訴による横領罪の判決確定は本件土地の移転登記手続請求事件について原告ら勝訴と判決されるにあたり原告ら主張事実につき信憑力を強めることに成功した。

(イ)(ロ)双方に対するもの

五、〇〇〇円。

被告らに対する本件民事々件および告訴事件につき大胡警察署、大胡登記所へ昭和三四年六月八日、同月一三日、七月一八日の三回小野弁護士が出張した日当および旅費合計金。

二、〇〇〇円。

同年一〇月三日前記民事刑事々件につき同弁護士が大胡警察署、大胡登記所へ出張した旅費日当。

(ハ) 一〇、〇〇〇円。

小野弁護士に委任して、昭和三四年二月一〇日に提起した抵当権登記取消請求訴訟手数料で同月一六日に支払つた二〇、〇〇〇円と同月一八日に支払つた八、〇〇〇円の合計。

五、〇〇〇円。

右手続に必要なる書類取集め書類作成費用として同月一八日に支払つた。

3、(イ) 五、〇〇〇円。

昭和三四年三月一六日被告竹内からの申立に基きなされた本件土地の競売開始決定に対し、昭和三四年五月二五日小野弁護士に委任してなした異議申立事件(昭和三四年(モ)第一四九号)手数料並びに右異議申立成功し開始決定取消の裁判がなされたことに対する謝礼金合計額で、昭和三四年六月八日支払つた。

(ロ) 五、〇〇〇円。

昭和三四年二月一六日に支払つたもの。すでに提起ずみの抵当権取消訴訟について保全方法として本件土地の競売処分禁止の仮処分を申請するために支払つた手数料。

もつとも小野弁護士は右本案審理の担当裁判官から、すでに所有権移転の仮登記がなされている以上(甲第二七号証)、重ねての右仮処分は不要であろうと言われ、原告中島が同意して右仮処分は申請しなかつたが、弁護士の責に帰し得ぬ理由で申立をしないで終了した場合であるので、手数料として支払つた。

三、〇〇〇円。

右同日支払つた右手続に必要なる書類取集め其他手続諸費用。

4、五、〇〇〇円。

昭和三五年五月三〇日被告高橋のした供託金に対する仮差押事件(三項4、六項に述べたとおり)の手数料および諸費用。

一〇、〇〇〇円。

被告高橋から、右供託金を取立てた(三項4、六項に述べたとおり)ので、これに対する謝礼金で昭和三六年二月一〇日に支払つたもの。

以上1ないし4合計金一五六、〇〇〇円。

5、五、〇〇〇円。

小野弁護士に委任して提起した、原告らより被告竹内に対する抵当権設定登記抹消請求事件(昭和三六年(ワ)第一四九号)の手数料で、昭和三六年六月二六日に原告ら連帯して支払つたもの。

一四、〇〇〇円。

右訴訟事件成功につき謝礼金として同年一〇月二八日に、原告ら連帯して支払つたもの。

以上5の合計金一九、〇〇〇円。

第四、請求の原因に対する被告高橋の答弁。

一、原告主張請求の原因事実第一項中被告高橋の先代高橋タイが昭和二六年一〇月一二日死亡したこと、被告高橋を除くその余の共同相続人が相続放棄をしたこと、および昭和二七年四月二日ごろ妻を通じて原告中島から金二五、〇〇〇円を受領した事実はいずれも認めるが、被告高橋が東京都方面へ出奔し消息不明となつたとの点は否認する。

その余の事実は不知。

二、同第二項中昭和三四年二月初旬ごろ原告中島に対し本件土地売買契約の解約申入れをしたこと、同年二月七日付で本件土地につき相続を原因とする所有権移転登記をなしたこと、同月九日付で原告ら主張の如き内容証明郵便を発送したこと、四月一〇日付で被告竹内のために原告ら主張の如き抵当権設定登記をなしたことはいずれも認めるが、その余の事実は不知。

三、同第三項中1の(イ)につき被告竹内のため抵当権設定登記をなしたことは認めるがその余は不知。

同1の(ロ)は不知。

同2の(イ)のうち理由のない抗弁を提出して不当に抗争したとの点は否認、その余の事実は認める。

同2の(ロ)のうち告訴のあつたことは認める。

同2の(ハ)の事実は不知。

同3、4、5の事実は全部不知。

四、同第四項の事実は否認。

五、同第五項中被告竹内について詐欺事件が不起訴処分になつたこと、被告高橋について横領罪が確定した事実は認めるが、その余は否認する。

六、同第六項中供託の事実は認めるが、その余は不知。

七、同第七項中原告らの小野弁護士に対する金員支払いの事実は全部不知。

第五、請求の原因に対する被告竹内の答弁。

一、原告ら主張の請求の原因第一項は不知。

二、同第二項中、「同日一〇日付をもつて」から「三八万円とする抵当権設定登記をなした」まで認める。「しかしながら右抵当権」から「不正利得の陰謀行為である」迄否認する。その余は不知。

三、同第三項中、原告中島が小野弁護士に委任して1ないし5掲記の各手続をとつたことは認めるが、被告竹内が不当に抗争したとの点は否認する。

同1(イ)(ロ)は認める。

同2の(イ)につき、原告主張の訴提起があつたこと、これにつき原告勝訴の判決があつたことは認めるが、その他は不知。

同2の(ロ)につき告訴等のあつたことは認めるが、必要性は否認する。

同2の(ハ)は不知。

同3の冒頭部分は同3(イ)について、被告竹内が競売申立をしたこと、原告中島の異議申立事件において開始決定取消の決定があつたことは認めるが、その余は否認する。被告竹内は抵当権設定登記が順位がおくれているので原告の所有権取得登記に対抗できないということは知らなかつた。

同3の(ロ)は不知。

同4については、「二項に述べたとおり」から「浅田に譲渡した」まで認める。

被告竹内に対し抵当権を抹消するよう原告らから屡々請求があつたことは認めるが、竹内は右抵当権が原告中島に対抗しえないものであることは知らなかつた。右請求の書面は無礼きわまるものであつたから内容は殆んど読んでいない。

同5については「ところが被告竹内は」から「奸智縦横に行動し」まで否認する。「唯訴訟費用は」から、「元来被告竹内の不正行為の結果必要やむなく提起された事件であるため」迄否認する。

その余は認める。

四、同第四項は否認する。

五、同第五項中被告高橋について横領罪が確定したことは認める。「前記各金員は原告らの」以下はすべて否認する。

六、同第六項は認める。

七、同第七項については原告ら主張の各金員が小野弁護士に支払われたことは認める。第六、証拠関係<省略>

理由

第一、成立に争いのない甲第二〇号証、第三三号証、同第三五号証ないし第四〇号証、被告竹内静之助本人尋問の結果により真正に成立したものと認める乙第二、第三号証ならびに証人中島幾次郎の証言および被告両名本人尋問の各結果と本件弁論の全趣旨とを綜合すると、つぎの事実が認められる。

一、即ち、原告中島は昭和二六年五月九日ごろ被告高橋の先代高橋タイから同人所有の本件土地を旧農地調整法第四条による群馬県知事の許可を停止条件として代金五五、〇〇〇円で買受け、同人に即時内金三〇、〇〇〇円を支払い、その際右県知事の許可あり次第同人において本件土地の所有権移転登記手続をなすことおよび右移転登記と引換残金二五、〇〇〇円を支払うことを約し、其後右タイが同年一〇月一二日所有権移転登記未了のまま死亡し、被告高橋を除くその余の共同相続人がその後相続放棄をしたため(高橋タイが右日時に死亡したこと、被告高橋を除くその余の共同相続人が相続放棄をしたことは被告高橋と原告らとの間において争がない。)、右タイの養子である被告高橋において右売主たる地位を承継し、昭和二七年二月七日付で右売買に対する県知事の許可があつたが、同被告は同年四月二日右残代金二五、〇〇〇円を原告中島からその父幾次郎を通じて受領したにもかかわらず(被告高橋が右日時ごろ、原告中島から右残代金二五、〇〇〇円を受領したことについては同被告と原告らとの間に争いがない。)同原告に何ら連絡せずに右移転登記未了のままそのころ東京方面に出奔したために、同原告は、約六年間にわたつて同被告の所在を知り得なかつた。

二、その後被告高橋は昭和三三年ごろ大胡町に帰り、このことを知つた原告中島は直ちに被告高橋に対し本件土地について所有権移転の登記手続をすることを求めたが、同被告はなかなかこれに応じようとせず、同年二月初旬ごろには逆に同人の実兄である訴外上宮某を伴つて原告中島方を訪れ、同人に対して売買代金である五五、〇〇〇円を返還するから前記売買契約を解約して貰いたい旨の申し入れをなし、同原告がこれを拒絶したところ、同被告は同年二月七日付で相続を原因として本件土地につき同被告のために所有権取得登記手続を了し、更に同月九日付で原告中島あて「本件土地の前記売買契約は錯誤に基くものであるから取消す」旨記載された内容証明郵便(被告高橋が昭和三四年二月初旬ごろ本件土地売買契約の解約申し入れをしたこと、同年二月七日付で本件土地につき相続を原因とする所有権移転登記をなしたこと、同月九日付で右売買契約は錯誤に基くものであるから取消す旨の内容証明郵便を発送したことは被告高橋と原告らとの間において争いがない。)および右売買代金を供託した旨の通知書等を送付しこれらはそのころ原告中島方に到達した。

三、そこで原告中島は、自己の権利を確保するためにやむをえず弁護士小野塵一に委任して、

1、本件土地につき昭和三四年二月九日前橋地方裁判所に仮登記仮処分命令の申請(同庁昭和三四年(モ)第三八号)をなしこれを許容する旨の決定に基いて、前橋地方法務局大胡出張所昭和三四年二月一〇日受付第二〇九号をもつて同原告のために前記売買による所有権移転仮登記がなされた(原告中島が小野弁護士に委任して右仮処分申請をなしこれが許可決定に基いて右仮登記がなされたことについては被告竹内と原告らとの間に争いがない。)。

これより前被告高橋は、被告竹内から金一〇〇、〇〇〇円を借りうけるとともにその以前から被告竹内が被告高橋に対して有していた金二八〇、〇〇〇円の消費貸借上の債権と合わせた金三八〇、〇〇〇円の債権を被担保債権として本件土地につき同月八日被告竹内のために抵当権を設定し、右仮登記よりも二順位おくれて、同月一〇日受付第二一一号をもつて被告竹内のため右抵当権設定契約を原因として抵当権設定登記をなした(被告竹内のために被告高橋か右抵当権設定登記をしたことは当事者間に争がない。)。

2、更に原告中島は同年三月三日被告高橋に対し、同裁判所に、本件土地について所有権移転登記手続を求める本案訴訟(同庁同年(ワ)第五一号)を提起したが(右訴の提起については両当事者間に争いがない。)、被告高橋は右売買契約の締結を否認し、更に「右契約は錯誤に基くものであるから取消す」「詐欺によるものであるから取消す」等の抗弁を提出して抗争し(右訴訟において、被告高橋が右契約の締結を否認し、抗弁を提出して争つたことは被告高橋と原告らとの間において争いがない)、昭和三五年六月二〇日同事件につき原告中島勝訴の判決があつた後も(右勝訴の判決があつたことは両当事者間に争いがない。)控訴して争つた(被告高橋が控訴したことは同被告と原告らとの間において争がない。)。

3、この間被告竹内は同年三月一六日前橋地方裁判所に対し、右抵当権の実行のために競売の申立(昭和三四年(ケ)第二三号)をなし(被告竹内が右申立をしたことについては同被告と原告らとの間においては争いがない。)これが競売開始決定がなされたので原告中島はやむなく小野弁護士に委任して、同年五月二五日右開始決定に対し異議申立(昭和三四年(モ)第一四九号)をなしたところ、同年五月二八日右開始決定を取消し(右開始決定取消しの決定があつたことは被告竹内と原告らとの間においては争いがない。)競売の申立を却下するとの決定があつた。

その後前記2掲記の本案訴訟において原告中島は勝訴の判決を得て確定したので、これに基いて昭和三五年一一月一日前橋地方法務局大胡出張所受付第三四七九号をもつて所有権移転登記手続を了し、本件土地中八四坪を昭和三五年一二月六日分割登記をし、昭和三六年一月二八日原告浅田に譲渡した(右本案訴訟において原告中島が勝訴し、右判決が確定したこと、これに基いて原告中島は右日時に所有権移転登記手続を了し、うち八四坪につき分割登記を経たうえ右日時に原告浅田に譲渡したことは被告竹内と原告らの間において争がない。)そして被告竹内の抵当権は前認定の如く原告中島の前記仮登記よりも登記受付番号がおくれているため、原告中島に対し法律上対抗力がないからすみやかに抵当権登記を抹消するよう原告らから小野弁護士を通じて被告らに対し屡々請求したが、被告竹内はこれに応じなかつた(右請求のあつたことは被告竹内と原告らとの間において争いがない。)。

4、そこで、原告らは、やむをえず、昭和三六年六月二六日前橋地方裁判所に対し被告竹内を相手方とし右抵当権設定登記抹消請求の本案訴訟(昭和三六年(ワ)第一四九号)を提起したところ、右訴訟中に被告竹内はみずから抵当権放棄による抹消登記をしたので、裁判所は昭和三六年一〇月一六日、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は被告竹内の負担とする」旨の判決をなし、右判決は確定して右訴訟は終了した(右訴訟の提起があつたこと、右訴訟中に被告竹内が抵当権放棄による抹消登記をしたこと、訴訟費用は被告竹内の負担とする旨の判決が右日時になされ、確定したことは同被告と原告らとの間において争いがない。)。

右認定を左右するに足りる証拠はない。

第二、一、そこで、前判示の如き被告高橋の契約履行の拒絶、応訴抵当権の設定等の行為が民法上の不法行為を構成するか否かについて判断する。

(一)  まず履行の拒絶について考えるに通常の場合それは債務不履行となるにすぎないが、契約の有効性について何等疑義をさしはさむ余地がないのに、債権者の権利を無効に帰せしめるような方法で何回にも亘つて履行を拒絶したりあるいは刑法上制裁をうけるような手段に訴える等著るしく信義則に反するような行為に出でた場合には右履行の拒絶は違法性をおび不法行為を構成し、債権者が権利確保のために費した費用中相当の範囲内にあるものは不法行為による損害として賠償を請求しうるものと解すべきである。

(二)  つぎに応訴について考えるに他からの訴に応訴することは、何人に対しても憲法上保障せられた裁判をうける権利の行使なのであるから、右訴訟に敗訴したからといつてそのことにより当然に右応訴が不法行為となる訳ではない。しかし反面右応訴が形式的にみて憲法上保障せられた権利の行使であるからといつてそのことの一事をもつて、右行為が不法行為にあたるか否かという実質的評価をまぬがれてよい筈はない。

例えば証人に偽証させたり自ら記憶に反した虚偽の陳述をしたりして、現行法上処罰をうけるような違法な方法で争い、或いは疑問の余地なく明白な相手方の主張を、自らそれと熟知していながら、ことさらに否認したり架空の抗弁を提出する等、訴訟上許容された範囲を逸脱し、信義則に反する不当な方法で抗争したりして防禦の権利を濫用したような場合にはその応訴行為は違法性をおび不当抗争として不法行為を構成するものと解すべきである。

(三)  かかる第三者の所有に帰した不動産につきたまたま自己に登記簿上の所有名義あることを奇貨とし、これに抵当権を設定する行為が不法行為を構成することは言うまでもない。

二、そこで本件についてこれを見るに、前掲各証拠によれば、本件土地売買契約締結の経緯は、昭和二六年五月ごろ被告高橋は当時群馬県水上町の隧道工事場に出稼ぎにゆき、その間妻ノブ子は被告高橋の養母高橋タイとの二人暮しでタバコ雑貨商を営んでいたところ、商売も思わしくなく高橋タイもそのころ既に高令で胃癌と肉腫を病み寝たきりでいて生活が苦しかつたため、同人は松井太郎ら外二名に小作させていた農地を同人らにそれぞれ売却したが、なお右営業資金に窮し本件土地をも原告中島に売却したいと考え、訴外徳原小一を介して原告中島の父中島幾次郎に本件土地を六〇、〇〇〇円で売りたい旨申し入れたところ、同人から五〇、〇〇〇円なら買つてもよい旨返事をうけたが、右徳原小一の世話で結局五五、〇〇〇円で話がまとまり前示売買契約が締結されたこと、被告高橋は昭和二六年ごろ大胡第一農業協同組合から同組合理事をしていた訴外三川栄一を通じて三〇、〇〇〇円を借りうけるに際して本件土地の前示売買契約について言及し、県知事の許可があり次第原告中島から残代金二五、〇〇〇円が入ることになつているからそれで右借受金の返済にあてたい旨述べていること、同年一二月二〇日、被告高橋は原告中島と連署で群馬県知事に対し前記売買契約の許可申請手続をなしていることを認めることができ、右認定に反する証拠はなく、右事実と前記第一項認定の事実とに徴すれば、「被告高橋は右売買契約当時の経緯を熟知していたにもかかわらず右二五、〇〇〇円の残代金受領後約六年間も右契約の履行を怠り、その後昭和三四年ごろ原告中島に右登記の移転方を請求された際にも何等法律上の理由がないのに言を左右にしてこれを拒絶し、前認定のとおり解約の申入れ、供託等の手段に訴えたので、原告中島は前示1の仮登記仮処分申請をしたところ、被告高橋は本件土地が原告中島のものであることを知りながら被告竹内のために本件土地につき抵当権を設定する等の挙に出た。原告中島は右売買契約の履行を求めるために前示第一項三2の訴を提起したところ、被告高橋は前示のとおり前記売買契約締結の経緯を熟知していて、右契約を有効とする原告中島の主張が正しく、右事実を否認して争うべき何等の理由がないことを了知しておりながら右契約の事実を否認し、自己の主張が何等理由のないことを知りながら「右売買契約は要素に錯誤あるものであるから無効である」「詐欺によるものであるから取消す」等架空の抗弁を提出して敢て抗争し、且つ自らも「本件土地は訴外高橋ノブ子において単に担保のために売り渡したにすぎない」旨虚偽の陳述をし、右訴訟の第一審に敗訴するや、勝訴の見込みがないにもかかわらず控訴して争つた」ことを推認することができる。

そうだとすると被告高橋はまず著るしく信義則に反する方法で履行を拒絶し、原告中島の所有に帰した本件土地について抵当権を設定し、更に、原告中島の訴提起に対し訴訟上許された範囲を著るしく逸脱した信義則に反する不当な方法で抗争したものであるから、右行為はいずれも公序良俗に反する違法なものであり、いずれも(特に右応訴行為は防禦権の濫用として)不法行為を構成するものと解するのが相当で、右各行為に対して原告中島および原告らがとつた前記1ないし4の各手続に要した費用中右不法行為と相当因果関係ありと認むべきものは、被告高橋において賠償する責任があるものというべきである。

三、そこで、被告竹内について不法行為が成立するか否かについて判断する。

(一)  まず被告高橋との共謀による不法行為につき考えるに前判示の如き被告高橋の抵当権設定およびその後の一連の行為について、同被告と被告竹内との間に、通謀ないし共謀がなされたとの点については何等これを認めるに足りる証拠がないので、従つて右共謀を前提とした被告竹内に対する請求はその前提を欠きその余の点について判断するまでもなく理由のないことは明らかである。

(二)  つぎに、被告竹内の前判示の如き応訴行為が不当抗争として民法上の不法行為を構成するか否かについて考えるに、応訴が直ちに不法行為を構成する場合については前項説示のとおりであり、これを本件についてみれば、成程被告竹内は当初抵当権の抹消請求に応じなかつたことは前記第一項認定のとおりであるけれども、被告竹内本人尋問の結果によると、右はもつぱら被告竹内において右抵当権が原告中島に対して対抗力を有しないということを知らなかつたためであり、これに反する証拠はなく、前記(一)記載のとおり、被告竹内と同高橋との共謀の事実が認められない以上自己の債権について抵当権の設定をうけるということ自体には何等違法性がないこととあわせて右被告竹内の応訴行為がそれ自体公序良俗に反し、不法行為を構成するものとは認め難いから、他に格別の立証のない本件においては右被告竹内の応訴行為についての弁護士費用の賠償請求は排斥せざるをえない。

第三、一、そこで進んで被告高橋の不法行為による損害の点について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第一ないし第一九号証によれば原告中島は小野弁護士に対し昭和三四年二月一六日に、前記第一項三1記載の同年(モ)第三八号土地仮登記仮処分申請事件の着手金として金五、〇〇〇円同日右費用として三、〇〇〇円同年二月六日に、前記第一項三2記載の同年(ワ)第五一号土地所有権移転登記請求訴訟事件着手金として一〇、〇〇〇円、右事件第一審判決勝訴につき同三五年六月二二日および同年七月七日の二回にわたり成功謝礼として三〇、〇〇〇円、同年九月一〇日に右事件の控訴審における手数料として二〇、〇〇〇円右控訴事件が控訴棄却となり確定したので成功謝礼として同年一〇月二八日金一〇、〇〇〇円、昭和三四年六月八日に前記第一項三3記載の同年(モ)第一四九号競売開始決定に対する異議事件報酬として五、〇〇〇円合計八三、〇〇〇円を支払つたこと、更に、原告らは同三六年六月二六日連帯して前記第一項三4記載の同年(ワ)第一四九号抵当権設定登記抹消請求事件の手数料として五、〇〇〇円、同年一〇月二八日右事件の成功謝礼とし、一四、〇〇〇円合計一九、〇〇〇円を支払つたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(二)  しかして民事訴訟事件の弁護士報酬については訴訟の目的物の委任当時の価格を基準としてこれを定めるのが通例であり、仮処分および競売事件についても同様とされているところ、成立に争いのない甲第三二号証第四〇号証、乙第一号証によると、原告中島が小野弁護士に前記第一項三2記載の本案訴訟事件を委任した当時には、本件土地の価格は約四〇〇、〇〇〇円であり、その後前記第一項三4記載の抵当権抹消請求事件が終了した昭和三六年一〇月当時までに著るしい価格の変動はないと思料され、右認定に反する証拠はなく、右事実と、日本弁護士会報酬等基準規程、群馬弁護士会報酬規定と前記第一項三認定の各手続の経過とに徴すれば原告中島および原告らが小野弁護士に支払うべき妥当な報酬は最低に見積つても、前記第一項三1ないし3記載の各手続について合計八四、〇〇〇円同4記載の手続について二四、〇〇〇円であることが認められ、従つて前認定の原告中島および原告らが支払つた報酬金は右弁護士報酬としては、相当の金額であるというべきである。

(三)  ところで我が民事訴訟法は弁護士強制主義をとらず、本人訴訟を許しているが、実際上は法律的な素養のない当事者本人が自ら訴訟にあたることはむしろ例外で、実務の経験を積んだ法律的素養のある弁護士に依頼して訴訟その他の手続を遂行することがむしろ通常であることと、さきに認定のように被告高橋がかなり執拗に本案訴訟提起前から抗争の態度をとつていたことを考え併せると、原告中島および原告らが小野弁護士に委任して前記第一項三1ないし4記載の各手続を委任してこれに報酬金を支払つた場合この支払額中報酬として相当と認められるものは被告高橋の前記不法行為によつて生じた即ちそれと相当因果関係の範囲内にある通常のかつ積極的な損害と解するのが相当である。

(四)  もつともなお原告中島が昭和三四年二月一六日に、前記第一項三1記載の土地仮登記仮処分手続の手数料として支払つた金員につき、原告らは金二、〇〇〇円の支払を請求しているので結局被告高橋が原告中島に支払うべき金額は八二、〇〇〇円となる。

二、(一) 更に前掲甲第一、第九、第四〇号証と、同第一五号証および同第一七、第三九、第一二、第五ないし第七号証、同第二、三号証および成立に争いのない同第二〇ないし第二二号証によれば原告中島は(い)前記第一項三記載の所有権移転登記請求事件について費用として昭和三四年二月六日に二、〇〇〇円同年一〇月二〇日検証立会のため大胡町役場に出張した旅費、日当として同年一一月四日に二、〇〇〇円、(ろ)同年一一月二〇日以前に小野弁護士が立替えた費用の返済として同日一、〇〇〇円、(は)前記第一項三2記載の控訴事件につき東京高裁判所に昭和三五年九月一四日弁論期日出頭のために東京行旅費および車代として同月一〇日に四、〇〇〇円、(に)本件土地に関して横領詐欺刑事告訴および共犯者捜査願等の手続をとり、これに関する手数料として昭和三四年三月一四日に一〇、〇〇〇円、同三五年六月一五日に謝礼金として一〇、〇〇〇円、(ほ)右民事各事件および告訴事件について、大胡警察署、大胡登記所へ昭和三四年六月八日、同月一三日、七月一八日の三回に亘り小野弁護士が出張した日当旅費として右各日時に、一、〇〇〇円、一、〇〇〇円、三、〇〇〇円合計金五、〇〇〇円、同年一〇月三日右同所に出張した日当手当金として、同日二、〇〇〇円、(へ)昭和三四年二月一〇日に提起した抵当権取消請求訴訟事件の手数料として同月一六日に二、〇〇〇円、同月一八日に残金八、〇〇〇円計一〇、〇〇〇円右手続に必要な費用として同月一八日五、〇〇〇円、(と)同年本件土地の処分禁止仮処分を申請するために着手金として五、〇〇〇円、右事件の登録印紙、裁判所納付費用および自動車代等として三、〇〇〇円以上合計五九、〇〇〇円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はないが、右(い)については、一方前掲甲第四〇号証によれば、同項掲記の訴訟の第一審判決においては「訴訟費用は被告(本件被告高橋)の負担とする」とされているところ、右訴訟費用中には訴訟代理人の必要事項調査のための旅費日当および検証立会のための旅費、日当、宿泊料が含まれることは明らかで、本件において原告らの主張する右四、〇〇〇円が右判決で認められた訴訟費用以外のものにかかることは原告らの立証その他本件全証拠によつても明らかにしえないところであり、右(ろ)についても同様であり右(は)については、同項記載の控訴費用は前記第一項認定の事実に徴すれば控訴人(本件被告高橋)の負担すべきものとされたことが窺われるところ、訴訟代理人が本人に代つて弁論期日に立会うために要した費用は当然右控訴費用中に含まれることは明らかで、右小野弁護士の立会が、本人に代つてなされたものであるか否かについて格別の立証のない本件においては、右四、〇〇〇円が控訴費用以外のものにかかることについて立証なきに帰し、右(に)については、告訴、告発は特段の事情のない限り、権利確保即ち民事訴訟手続遂行上必ずしも必要なものでなく、また刑事訴訟法上告訴告発は検察官又は司法警察員に対し、書面は口頭で犯罪事実を申告し処罰を求めることによつてなしうるものとされ、弁護士依頼の必要はなく、実際上も特段の事情のない限り殆んど弁護士を依頼することなくなされているのが通常とされているところ、右特段の事情については何等これを認めるに足りる証拠はなく、右(へ)については、小野弁護士が、右抵当権取消請求訴訟を提起したことについては何等これを認めるに足りる証拠はなく、右(と)については、小野弁護士が結局右処分禁止仮処分の申請をしなかつたことは原告らが自陳しているところであり、以上各金員の支払が前示被告高橋の不法行為と相当因果関係の範囲内にあるものとは認め難く、結局右各金員についての被告高橋に対する請求は失当として排斥せざるをえない。

(二) 前掲甲第二二号証、第三九号証と本件弁論の全趣旨によれば、被告高橋は本件土地売買代金の内金五五、〇〇〇円を供託局に弁済供託し、前記第一項認定のとおり昭和三四年二月二〇日付で「右内金は借受金であるから供託した」旨原告中島に通知して来たので、原告中島は小野弁護士に委任し、そのころまでにこうむつた同被告の前示不法行為によつて生じた損害金債権(前記第一項三1ないし3各申立事件の各訴訟費用、弁護士に対する謝金日当合計金)を被保全債権として、同被告の右供託金返還請求権の仮差押の申請をなし、右認可の決定をえたが、加えて同被告に対し昭和三六年二月四日ごろ小野弁護士から同被告に対し、同被告の不法をさとし、かつ右供託金は便宜同原告のこうむつた損害金に充当し且つ被告竹内において自発的に抵当権登記を抹消するならば爾余の請求権については寛大にはからうべき旨申入れたところ、同被告もこれに対し異議を述べなかつたので、同原告は右仮差押を解除すると共に、検察庁から同原告に渡された供託証書により、同原告が五五、〇〇〇円を受領するとともに、その全額を右損害金の一部に充当したこと、原告中島が小野弁護士に対し、右仮差押事件手数料として五、〇〇〇円右供託金取立てについての謝礼金として一〇、〇〇〇円をそれぞれ支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はないが、以上認定の如き場合に、被告高橋には他にこれといつた資産収入もなく、右の如き迅速な手段に訴えない限り、右損害金を取立てることが将来不可能となるおそれがある等特別の事情がない限り、右各金員の支払が前示被告高橋の不法行為の結果必要やむをえずなされたものであると認めることはできないと解すべきところ、右特別の事情については何等これを認めるに足りる証拠がないので、右支払が前示被告高橋の不法行為と相当因果関係の範囲内にあるものとは認め難く、これについての被告高橋に対する請求も亦排斥せざるをえない。

第四、以上の次第であつて、被告高橋が原告中島に対し前記第三項一、(四)認定のとおり支払うべき八二、〇〇〇円のうち五五、〇〇〇円については既に支払をうけていることは原告らの自認するところであるからこれを右金員から控除した残額二七、〇〇〇円およびこれに対し同被告に本件訴状が送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和三六年一二月二二日以降支払ずみに至るまで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の支払をなす義務があり、また原告らに対しては前記認定の一九、〇〇〇円およびこれに対し同じく右同日以降支払ずみに至るまで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきである。

よつて、被告高橋に対する原告中島および原告らの請求は、右認定の限度で正当として認容することとし、被告高橋に対するその余の請求および被告竹内に対する請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条を仮執行の宣言については同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柏木賢吉 秋吉稔弘 藤森乙彦)

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